自費出版への道 7 大学の夏休みに私が行った福井県丸岡、愛媛県越智郡岩城島、岡山県津山市でのお話し

奮闘記

 社会地理学研究会しゃかいちりがくけんきゅうかい、通称社地研しゃちけんの活動はかなり地味です。
 新入生を迎える前、3月にはすでに次年度の調査研究対象地域が決まっており、年度が替わる4月からは選定した地域問題の学術的アプローチが始まります。ですから、新入生は、いきなりこの学術的アプローチから参加することになります。
 正直、私も1回生の時には資料を読んでも何が何だか全く分からず、それもそのはず、地理学科に入って地理学系のサークルに入ったはずなのに「経済学の本を読め」と、それも労働と労働力の違い、労働力の再生産とか、マルクス経済学の理論を学ばされるのです。加えて先輩に勧められた『社会経済地理学論攷しゃかいけいざいちりがくろんこう』も全く理解できず学術系アプローチは相当苦労しました。

 それでも先輩たちが真剣に議論を交わしている姿を見たり、飲みに行っていろんな話をすることが楽しくて、時に辛くてしんどかったけど、私にとっては楽しかった思い出しかありません。
 けれど時代が下り、こうした生真面目な学術系サークルは敬遠されるようになったのでしょう。次第に新入会員が少なくなって社地研は、2001年3月末を以て、事実上の活動停止、解散することとなってしまいました。社地研がなくなってしまったことはもちろんなのですが、社地研のような地味な学術系サークルが衰退していく姿は日本の近未来の姿を見るようで、残念と言うよりも心配な気持ちが先に立ってしまいます。

 地味な社地研の活動にあって、8月に行われる研究対象地域に入って行う本調査は最も楽しみな活動でありました。
 
 私が1回生の時には福岡県丸岡町に、2回生の時には愛媛県越智郡の岩城島、生名島に、3回生の時には岡山県津山市に、それぞれ4泊5日程度の合宿をして、地域と関わりながら地域の生の声を吸い上げる活動を行ったのです。

岡山県津山市

 例年、活動の中心になるのは3回生で、サークル活動の運営の中心となるだけでなく、地域問題へのアプローチとして設けられた班の責任者として活動していく。例えば私が3回生の時には工業班、商業班、農業班、地域生活班の4つの班が設けられ、私は商業班のパートリーダーとして活動していました。
 このとき対象地域となったのは岡山県津山市で、中国自動車道が開通したことによって、地域がどのように変容していったのかをそれぞれの視点からアプローチしていった。我が商業班では町の郊外に立地した大型商業施設が、従来の町の商店街にどのような変容をもたらしたのかを、大型商業施設の立地前後の売上高の推移、あるいは商品構成の変化、所得の移動などを調査することで、地域の変容を明らかにしようとしていました。

 

 本調査のことで、いまも強く覚えていることが2つあって、1つは1回生の時に訪れた福井県の丸岡町での出来事。何日目かは忘れてしまったのですが、午後、田んぼの真ん中を歩いているときに急に空が暗くなって、雷鳴が響き始めたのです。見渡す限り田んぼばかり。落雷の危険を感じながらひたすら町まで走ったことを思い出します。
 2つめは3回生の時の津山市でのことで、班のメンバーと真夏の商店街を歩き回り、その日の予定を終えて宿舎に戻る途中で、他の班にはナイショでビールを飲んだこと。

 なんてことない思い出なんですが、あのときにしか出来ないことを思いっきり楽しんでいたことを懐かしく思い出します。

 本調査の最後には打ち上げの宴があります。

 3回生から1回生まで、本調査に参加したメンバーで夜遅くまで酒を酌み交わします。正直、どんな話をしたのか全く思い出せませんが(酒の席ですしね)、それでも、そのとき交わした話はいまの私に繋がっていることは間違いのない事実であって、これら経験の全てが「オブシディアンの指環」の基礎になっていると思うのです。

 因みに、2回生の時に訪れた岩城島や生名島の近くには、昭和54年5月から平成11年5月にかけて「西瀬戸自動車道(通称:瀬戸内しまなみ海道)が整備されましたが、これら島々はルートから外れ、いまでもフェリーに頼らざるを得ない生活が続いています。

 そんな現実を知ると、大学を出て30数年を経た私たちがいま、この地域を研究したらどんな研究報告がまとまるのだろうと、想像してしまいます。

 頭を抱えながら学んだ資本の動き一つにしても、いまの私たちは机上の理論のように動かないことを知っています。いわゆる世の中が綺麗事で動いていないことも実経験を元に誰もが知っているはずです。社会に対してあまりにも無垢だったあのときとは違った地域問題へのアプローチが出来るのではないかと、思うことがたまにあります。

 地域問題研究、夏の本調査。
 なんだか、もう一度、やってみたくなりました。


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